ロールキャベツは好きですか?
どうしてこの人は笑えるんだろう?
泣いたり、苦しんだり、そんな感情を全く感じさせないんだろう?
「田島くん。食べないの?」
ジッと主任を見つめていたから、主任は訝しそうに俺を見てきた。
「主任。渡邊主任は、松谷課長のことを、好きじゃなかったんですか?」
主任の上げられた口角がピクッと動いた。
だけど、それだけだった。
それ以上の動揺は見せなかった。
「どうして、ここで松谷課長が出てくるの?」
沈着冷静さは、さすが他の誰にも負けていない。
「会社では本当に上手に隠していましたね。他の人たちにはバレてませんよ」
「あったりまえ。バレてたら、困るわ」
観念したのか、主任は溜息をついて、箸を置いた。
「迂闊だったわ。私の家に入っていく彼の姿を見たんでしょう?地元までは警戒してなかった」
「誰にも口外していないから、ご安心ください」
主任の言う通りだった。
何度か主任のアパートに入っていく二人の姿を目撃していた。
俺が入社してから最近までわりとよく見かけていたから、付き合って三年は経っていると思う。
松谷課長と渡邊主任。
文句のつけようがないカップルだった。
二人は常にお互いをライバルだと意識していたし、有能な二人が織りなすテンポのいい会話は社内で聞いていても、心地よいものだった。
「今日の別れ話って、松谷課長と、ですよね?」
「それ聞いてどうするの?」
「どうもしません。ただ、不思議なんですよ。主任があまりに普段と変わらないから」
俺が素直に言うと、主任は困ったように眉を下げた。
それでもやっぱり、笑っているようにしか見えなかった。