ロールキャベツは好きですか?

どうしてこの人は笑えるんだろう?

泣いたり、苦しんだり、そんな感情を全く感じさせないんだろう?

「田島くん。食べないの?」

ジッと主任を見つめていたから、主任は訝しそうに俺を見てきた。


「主任。渡邊主任は、松谷課長のことを、好きじゃなかったんですか?」

主任の上げられた口角がピクッと動いた。

だけど、それだけだった。
それ以上の動揺は見せなかった。

「どうして、ここで松谷課長が出てくるの?」

沈着冷静さは、さすが他の誰にも負けていない。

「会社では本当に上手に隠していましたね。他の人たちにはバレてませんよ」

「あったりまえ。バレてたら、困るわ」

観念したのか、主任は溜息をついて、箸を置いた。

「迂闊だったわ。私の家に入っていく彼の姿を見たんでしょう?地元までは警戒してなかった」

「誰にも口外していないから、ご安心ください」

主任の言う通りだった。
何度か主任のアパートに入っていく二人の姿を目撃していた。

俺が入社してから最近までわりとよく見かけていたから、付き合って三年は経っていると思う。

松谷課長と渡邊主任。
文句のつけようがないカップルだった。

二人は常にお互いをライバルだと意識していたし、有能な二人が織りなすテンポのいい会話は社内で聞いていても、心地よいものだった。

「今日の別れ話って、松谷課長と、ですよね?」

「それ聞いてどうするの?」

「どうもしません。ただ、不思議なんですよ。主任があまりに普段と変わらないから」

俺が素直に言うと、主任は困ったように眉を下げた。

それでもやっぱり、笑っているようにしか見えなかった。
< 27 / 210 >

この作品をシェア

pagetop