ロールキャベツは好きですか?

世界から音が消えた気がした。
この世界には私たちしかいないかのように、静まり返っていた。

秋風が私の肩まで伸びた髪を揺らした。

「……田島くん……」

「今まで、松谷課長がいたから、遠慮していました。だけどこれからは隠すつもりはありません」

のんきで、穏やかで、のほほんとしていて。

そんな優しい瞳に似つかわしい情熱を、彼の瞳に垣間見た。

と、不意に、彼は一歩距離を縮めてきて。

「草食系だと思って油断してたら、食べられますよ?」

耳元で囁かれた、忠告━━━。

ドクンっと心臓が跳ね上がり、それを悟られまいと、必死に平然を装った。

「……そんな言葉、カピバラくんらしくない」

「見た目は草食系でも、中身は普通に、肉食系男子ですから?」

見た目は草食。
中身は肉食。

さっき食べたロールキャベツを思い出した。

コンソメの香りが口いっぱいに広がった、あの、ロールキャベツ。

キャベツと肉が口の中で混ざり合い、それぞれの良さを更に引き立てる。

目の前の細い目を見た。

宣言したからには、必ずやり通すのが、田島祥吾という男。

……私は彼を好きになってしまう日が来るのだろうか?

予知能力もない、この手のことに相当疎い私には、まだまだ想像もつかないのだった。
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