ロールキャベツは好きですか?
そこで私は未だに大切なことを伝えていないことに気がついた。
「おめでとう。佐藤さん。それから、お幸せに、ね」
渡邊祈梨(いのり)。
29歳。営業部第三課主任。
私の周りの女は、ひとり、またひとりと結婚し、母となっていく。
その事実を思い、その思いが独身アラサーの僻みみたいで、慌てて意識から追い出した。
考えを変えるために、佐藤さんに無理矢理話題を振る。
「あなたに恋人がいたとは、知らなかったわ。佐藤さん」
「社内恋愛だから、秘密にしていたんです」
首を竦めてみせた佐藤さん。
仕事上では封印している恋バナ好きである私が顔を覗かし、その相手を聞き出したいとウズウズした。
勤務中だが、これくらい許して。
膨大な仕事をやっつけるための楽しみぐらいいいでしょう?
「社内の人なの。して、相手はズバリ?」
先輩という立場と突然の退職への後ろめたさも手伝ってか、佐藤さんは教えてくれるらしい。
彼女はフフと嬉しそうに笑った。
誰もいない会議室だからそんな必要はないのに、佐藤さんは小声で耳打ちしてくれた。
「他の人には発表するまで内緒ですよ。相手は……松谷課長です」
「え?」