ロールキャベツは好きですか?

「主任の手料理、一度食べてみたいな」

ボソッとつぶやいた田島くんに慌てて首を振る。

「そんなの無理よ。私不器用だから、ろくなもの作れない!」

「もったいないなぁ。立派なキッチンあるのに」

確かにうちの家は家賃が低価格なわりに、キッチンはしっかりしたものがついている。

「別にろくなもの作らなくてもいいですよ?味はイマイチでも、それはそれでいい思い出になりそうだし」

「私からしたら、恥ずかしい思い出にしかなりません」

そんなやり取りをしている間に、田島くんは手際よく、卵を土鍋に流し込み、蓋をしめた。

カチャッとガスを止めて、ゆっくり私の顔を振り返る。

「できました。あ、事後承諾になりますけど、雑炊二人前作ったんで、俺も朝ごはんとしていただきますね」

事後承諾も何も、朝まで付き添ってくれていた彼に否を唱える理由もなく、私はコクリと頷いた。

「ありがとうございます。主任と朝ごはん食べられるとか嬉しい」

はにかんだ彼はあまりに無垢で、素直で、だけどとても、幸せそうな彼に、私の気持ちもおんなじように、幸せになる。

この所、ささくれだっていたから。
心が和む。優しくなれる。

━━━カピバラくんパワーだ。

そんなことを言ったら、目の細さを気にしている田島くんはきっと拗ねるんだろうな。

「……どうしたんですか?主任、笑いをこらえて」

「ちょっと……思い出し笑い?」

拗ねる田島くんが目に浮かんで、笑いを堪えていたのに、バレてしまった。

「意味わかりません」

「わからなくていいの」

怪訝な表情で首をかしげながら、彼はダイニングテーブルに土鍋を置いた。

「田島くんといると、結構楽しいな、って思っただけ」

一瞬、目を丸くした田島くんは、それから、ニコッと微笑んだ。

「それは俺もですよ。主任」
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