ロールキャベツは好きですか?
そのときガラガラと扉が開く音がした。
「戻りましたー!杏いい子にしてた?」
ハキハキした張りのある声で部屋に入ってきたのは、真ちゃんだ。
「ママー」
杏はその声に反応して、私の膝の上から立とうとする。
その脇を持って支えてあげると、スクッと立って、大好きなママのもとへ駆けていった。
「お義姉さん。すみません。杏を見てもらって」
「いいのいいの。杏抱っこしてると、癒されるし」
「失恋の痛み、癒やさなきゃいけないしなぁ。いくらでも貸すよ杏を」
洋平はケラケラ笑いながら、茶化すように言った。
そんな洋平の言葉に、杏を受け止めながら、目を輝かせたのは真ちゃん。
「失恋って、何の話ですか?お義姉さん!」
真ちゃんは私同様、恋バナ好きだから。
身を乗り出して訊いてくる。
「姉ちゃん、彼氏と別れたんだって、先週」
「えー!うそ!何でですか!?私そろそろお義姉さんもご結婚されるかなって楽しみだったのに!」
「結婚は当分、しないよ。私仕事まだまだ続けたいし。それに私が家事苦手なの知ってるでしょ」
「うん。それは知ってる。俺のほうが料理うまい」
洋平は大きく頷いた。
「姉ちゃんも練習したら?料理の作り方とか散々ばあちゃんや母さんに叩き込まれてたじゃん」
私が就職して一人暮らしを始めるまで、祖母や母は確かに根気よく私に料理を教えてくれていた。
だから、作り方はわかる。
けど、どんなにその通りに作っても、母や祖母が作ってくれたような、優しい味にはならない。