ロールキャベツは好きですか?
松谷課長はそのまま、フロアを出ようとして……何かを思い出したようにまた振り返った。
「お前、聞いた?双山(ふたやま)課長戻ってくるって」
松谷課長の声に、タイピングをしていた主任の指が一瞬とまった。
だけど、本当に一瞬で、すぐにまたリズミカルな音がオフィスに響く。
「双山課長……」
「とうとう帰ってくるんだって。課長から昇任して営業部長やるらしいぞ」
「初耳だ」
松谷課長の声に、俺はコソッと耳をたてる。
現在の営業部長が退職するということは聞いていた。
奥さんと一緒にカフェを開くらしい。
来月から部長がいなくなるので、新部長が就任するのだが、それがどんな人なのか気になっていた。
「戻ってくると同時に、結婚もするらしいよ」
「結婚……」
「専務の娘さんだってさ」
「……そう。専務の」
オウム返しになるのは、驚いたときの主任の癖。
つまり主任は、その双山という人のことを聞いて、驚いているらしい。