ロールキャベツは好きですか?

正直に応えると、やっぱりねとでも言うように、主任は首を竦めた。

「元カレだろうと、誰だろうと、仕事の話なら話すよ。仕事場にプライベートを持ち込むのは、私の良心が許さない」

相変わらず、サバサバした人だ。

確かに主任は、プライベートを職場まで持ち込まない。
昨年、母や祖母を同時に亡くしたときも、胃潰瘍で倒れたときも、今と同じ表情で仕事をしていた。

俺は仕事場で主任と出会った。
いつでも全力投球な主任を好きになったのも、職場だ。

しかし、ここ1、2週間で何度も主任のプライベートを見てきた。

恋人と別れた主任。
料理を前にはしゃぐ主任。
熱で倒れた主任。
涙を見せて、手を繋いできた主任。
家族といる主任。
下手くそな笑顔を浮かべた主任。

仕事場での主任が『強い』ところとすると、そのプライベートは『弱い』ところ。

それが見れたのは嬉しかった。
ちょっとだけ、俺に対して無防備だったから。

信頼されているみたいに思えたから。

だけど、肝心な心は見えない。
彼女の心が今まで、どんなことを経験して、どんな傷をおってきたのか。
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