ロールキャベツは好きですか?

side:祈梨


「佐藤さん、本当にお疲れさまでした!カンパーイ!」

「「「カンパーイ!!!」」」

私の音頭を合図に、幾つかのグラスが音をたてる。

佐藤さんの退職願望を聞いてから、早数週間。

あと数日で佐藤さんの勤務も終わってしまう。

そんな金曜日。
佐藤さんと個人的に親しかったメンバーで佐藤さんお疲れ様会を開いた。

営業部はこの間、部長の送別会を開いたところだ。
佐藤さんには部長ほど盛大な送別会はできないけれど、せめてうちの課だけでも……と私が企画したのだ。

言い出したからには、幹事なども引き受けるつもりだったけれど、佐藤さんと親しかったアシストの畑中(はたなか)さんが幹事をやると申し出てくれた。

「本当に佐藤さんお疲れさまでした」

笑顔を向けると、佐藤さんはソフトドリンクを片手に、ニコリと微笑み返してくれた。

「ありがとうございます!私、主任のそばで働けて本当に楽しかったです」

「寂しくなるわね。佐藤さんに今まで何度助けられかわからないから」

佐藤さんはさりげない気配りが本当に上手だった。

後輩に任せてもいいようなデスクの雑巾がけ。
フロアの棚にこっそり生けられた一輪の花。
煮詰まりそうなときに、そっとデスクに置かれるコーヒー。

仕事が心地よく行えるように、さり気なく、陰で動いてくれていた。

表に出るような仕事じゃない。
私の仕事のような具体的に数字に成果が現れる仕事じゃない。

それでも、彼女は、そんな仕事を丁寧に、誇りを持ってやってくれた。

「季節ごとに生けられる花瓶の花。とても癒された」

「あれ、私が生けてたってバレてましたか!?バレないようにしてたのに」

そう。この子はいつも自分のしたことを、自分の成果だとは公言しない。
あくまでこっそりとするのが佐藤さん。

その慎ましさと謙虚さから、色んな人に慕われた。

今日の送別会でもうちの課からほとんどの人が参加した。

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