素直になれない7センチ
————結局よくわからないままフロアの戸締まりをして、会社のビルを出た。
肌寒い夜の風を感じて、トレンチコートのボタンを閉める。
さすがに夜はトレンチコートないと辛いな。
7センチのハイヒールのかかとを鳴らしながら、歩いていく。
疲れて倒れ込みたい気分でもこのハイヒールを履いたら気が引き締まる。指先がちょこっと痛いけど。
視界に映った光景に心臓が大きく脈を打ち、目を見開いた。
「……なんでいるの?」
会社から駅へと向かう最初の曲がり道に彼がいた。
私よりも先に帰ったはずなのに。
「んー……香穂さんにどうしても会いたくて」
そう言って微笑む夏目くんの笑顔に胸が締め付けられる。
どうしてそこまで……?