素直になれない7センチ



————結局よくわからないままフロアの戸締まりをして、会社のビルを出た。


肌寒い夜の風を感じて、トレンチコートのボタンを閉める。

さすがに夜はトレンチコートないと辛いな。


7センチのハイヒールのかかとを鳴らしながら、歩いていく。

疲れて倒れ込みたい気分でもこのハイヒールを履いたら気が引き締まる。指先がちょこっと痛いけど。




視界に映った光景に心臓が大きく脈を打ち、目を見開いた。



「……なんでいるの?」


会社から駅へと向かう最初の曲がり道に彼がいた。

私よりも先に帰ったはずなのに。



「んー……香穂さんにどうしても会いたくて」


そう言って微笑む夏目くんの笑顔に胸が締め付けられる。

どうしてそこまで……?





< 32 / 60 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop