素直になれない7センチ
「時間もったいないよ」
「ちゃんとメモとったことをノートにまとめたり、システムの仕事について近くのカフェで勉強してたから無駄な時間なんかじゃなかったよ」
夏目くんが真面目だってことは昔から知ってる。
休憩って言うとすごく喜ぶ可愛い男の子だったけど、勉強熱心で宿題を出したら必ずきちんとやってきていた。
見た目も時折見せる表情や仕草も大人っぽくなっていて、ブラック珈琲なんて飲めるようになってて……変わっちゃったって思っていたけど、そういうところは変わっていなかったんだ。
「ごめん……迷惑だった?」
「……ううん」
「よかった」
迷惑だなんて思わない。
この感情はなんだろう。変な感じ。
夏目くんは私の生徒だった人で、弟の友達。それ以上ではないはずなのに。
「遅くまで、おつかれさま」
久しぶりに誰かに頭を撫でられた気がする。
冷えきって固まっていた心がじわりじわりと溶けていく感覚に、不思議とすっと疲れが抜けていく。