素直になれない7センチ
「てか、香穂さんって背こんなに高かったっけ」
「あ……ヒールに履き替えたから」
「なるほど。転ばないようにね」
「だ、大丈夫だよ!」
そんなに危なっかしく見えるのかな。
確かに靴擦れもするし、何度履いても馴れないけど……これを履いていたら頑張れるんだ。
落ち込んだ日も、頑張らなきゃって気合いをいれる日も。
おまじないのように7センチのハイヒールを大人の女ぶって強がって履いて、折れそうになる自分の心を支えてきた。
「ねえ…………俺はまだ香穂さんにとって」
隣を歩いていた夏目くんが視界から消えたことに気づき、二歩くらい遅れて立ち止まり、振り返る。
夏目くんが真剣な表情で私を見据えていて、その熱っぽい眼差しに鼓動が高鳴る。
私にとって……なに?
「あれ!? 夏目くんと新藤さん!?」
後方から聞こえてきた声に驚いて振り返ると、薄茶色の巻き髪の可愛らしい女性が立っていた。
まさか彼女にこんな現場を見られちゃうだなんて。