素直になれない7センチ
「帰りましょう、水井さん」
「やだ! 帰りたくないっ」
夏目くんにぎゅっと抱きつく水井さん。
その光景を目の当たりにして、胸の痛みが増していく。
「私、夏目くんが好きなの」
認めたくなかった。勘違いだって思いたかった。
それなのに、こんな状況を見て自覚してしまうなんて。
下唇を噛みしめて、必死に堪えようとしたけれどポロリと涙が一筋頬に伝った。
「え……」
水井さんに抱きつかれたままの夏目くんと目が合ってしまった。
嫌になるくらい私は冷静に涙を拭って、夏目くんから視線を逸らす。
けれど、さすがに堂々と横切ることもできず、身を翻して行く宛もなく駆けていく。
7センチのハイヒールじゃ早くなんて走れないけど、一刻も早くあの場所から逃げたかった。
つま先が痛くても、転びそうになっても構わない。
見たくなかった。
知りたくなかった。
夏目くんのことが、好きだなんて。
今更言えるはずもない。