セカンドパートナー

 あの後、秋月さんは柔和な笑みを浮かべて、私にありがとうと言った。

「詩織さんに話してよかった。同級生の友達は皆結婚したり仕事で海外に行ったりしてて、とても恋愛相談なんてできる感じじゃないから」
「そんな。私は何も……」
「聞いてもらって楽になったよ。奏詩(そうし)のこと、前向きにがんばる!」
「それならよかったです。では、また明日」
「楽しみに待ってる。さよなら」

 秋月さんに合わせるように、笑顔を作って手を振った。

 あれ以来、秋月さんは並河(なみかわ)君と会ってるんだろうか。ううん、彼は忙しいし、それはないか……。

 そう考えないと、やってられない。


 もともといい性格だなんてちっとも思っていないけど、年々、嫌な性格になっている気がする。

 並河君に何かメールしてみようかと思ったけど、やめた。彼女いる人に特別な感情を持って連絡するなんて、したらいけない。

 私は既婚者だ。いつまでも過去に縛られているわけにはいかない。優人(ゆうと)に後ろめたいことはしたらダメだ。


 翌日の午後、普段はしない結婚指輪を左手の薬指にはめて書道教室に行った。秋月さんに個人的嫉妬をしないよう、戒めだ。

 秋月さんの書道教室は平日に毎日開かれていて、生徒さんの都合で来る日を週毎決められる。2階が秋月さんの自宅だから融通が利くとのこと。

 初日に比べ今日は参加する生徒さんが少ないので、気楽だった。

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