セカンドパートナー
「詩織さんのお祝いって言っておきながら、本当は私自身が奏詩を元気づけたいだけなの。詩織さんが教室に来てくれたことは嬉しいから、そのお祝いをしたいっていうのも本当なんだけど……。ごめんね」
「いえ、謝らないでください……。秋月さんがそう思うのは当たり前のことです」
私も心配になった。表立ってそう言えないのがもどかしい。並河君は本当に絵を描けなくなってしまったのだろうか……。
「ありがとう。詩織さんは優しいね」
つぶやく秋月さんは悲しそうにうつむいた。並河君のことが本当に大好きなんだ、この人は……。
「分かりました。鍋、やりましょう。旦那のこと、誘います」
「でも……。いいの……?」
「はい。私こそ、ノリ悪かったですよね。せっかくのお誘いなのに断ってしまって、すみませんでした……」
「ううん、全然……! 気にしないで。ありがとう! 奏詩もきっと喜ぶよ!」
秋月さんは、パッと明るい顔になった。元の美しさがさらに輝くようで、眩しい。
「予定決めたいし、詩織さんの連絡先教えてくれる?」
「LINEでもいいですか?」
「もちろん!」
メールも出来るけど、アドレスは教えたくなかった。
高校二年の頃、美季と一緒にバイトを始めて、念願の携帯電話を買った。
親には金がかかると反対されたけど、自分で料金を払うなら契約くらいはしてやると言われた。同時に、滞納したら二度と契約しないと脅されたので、簡単にバイトをやめれなくなったが。
それから何度か機種変更したけど、その頃からずっと同じメールアドレスは、今では主に仕事先や、SNSをしない並河君との唯一の連絡手段になっている。
秋月さんとLINEのIDを交換しながら、早くも後悔していた。そのメンバーで鍋なんてやりたくない。