セカンドパートナー
矛盾しているかもしれないけど、秋月さんの悲しげな顔を見た瞬間、何とかしてあげたいと思ってしまった。この気持ちは、高校で田中さんに頼み事をされた時の感覚に似ている。
それに、形はどうであれ、並河君に会いたい。
鍋をしただけで並河君の危機をどうにかできるとは思わないけど、少しでも元気になって、昔みたいにまた楽しく絵を描いてほしい。しんみりしていてほしくない。
「鍋、楽しみだね」
「そうですね。旦那も鍋大好物なのできっと喜びます。では、これで」
今度こそ本当に帰ろうと教室のドアを開けた時、秋月さんが独り言のように言った。
「詩織さんと奏詩って、何かあるのかと思ってた」
感情のない声だった。背筋が寒くなる。
この時ばかりは、うわべだけの言葉や作り笑顔が器用に出てこなかった。
どうしてそんなことを言うの?
ーー秋月さんの言葉が突き刺すように胸を圧迫してくる。呼吸がうまくできないようだ。苦しい……。
「……なんて、そんなはずないよね。詩織さんは結婚してるし。変なこと言ってごめんなさい」
何事もなかったかのようにあっけらかんと言い、秋月さんは微笑した。
こわい……。私の反応を試しているの?
「そうですよ〜」
胸を侵食する秋月さんの疑念を振り払うように、明るい調子で話を合わせた。
「旦那がいるのに他の人とどうこうなるなんて考えられませんって」
「だよね。長い時間そばにいた旦那さんとの暮らしを捨てるなんて、絶対考えられないよね」
釘を刺す。そんな口調だった。でも、秋月さんの顔には柔らかい笑み。崖っぷちまで追いつめられている気分だった。