セカンドパートナー
「優人、辛口が好きなのに、結婚してからは私に合わせて甘口ばかりだよね。ストレスじゃない?」
「それ訊かれたの、新婚の時以来だね」
「……うん」
「答えはずっと一緒。あまちゃんが作ってくれる物は全部おいしいよ」
「……ありがとう。ならいいんだけど……」
優人は優しい。こんな風に言ってくれる旦那さんと一緒になれて幸せだと、普通なら思うのかもしれない。私の場合、心のどこかでその優しさを疑ってしまう。
生涯のパートナーである優人の好意ですらまっすぐな気持ちで受け取れないのは、父親の愛情を受けて育たなかった影響なのだろうと、自分なりに解釈している。それでもやっぱりモヤモヤしてしまう。
「よかったな。鍋できるような友達ができて」
「え……?」
「結婚してから、新しい友達っていなかったでしょ。美季ちゃんや羽留ちゃん以外の友達のこと全然聞かないから、ちょっと心配してたんだよ」
「秋月さんは、別に友達ってわけじゃ……」
出た。優人の優しい無神経。
私は別にこぞって友達を作りたいとは思わない。むしろ、人間関係をこれ以上広げたくないと考えているくらいだ。
高校卒業後、家を出て自由になりたいがために就職はせず大学に進む道を選んだ。私立のわりに学費が安いからと、美季の誘いを受けてのことだった。
我が家には大学に行ける金銭的余裕はなかったので、三者面談では当然のように母から就職を強要されたけど、その頃バイトで人間関係に悩んだため、社会人になる勇気はまだないと思った。もう少し学生という立場に甘えていたい。担任には、少々強引に進学したいと相談した。
ウチは本当に貧乏だったので、審査基準をクリアし奨学金をもらうことができた。その代わり他の学生のように講義をサボったりできないし必須単位を落とすことは許されない身となったけど、平穏な大学生活のためと思い、乗り切った。
大学は家からそう遠くないけど、あえて大学の寮に住んだ。寮といっても古い長屋みたいな住まいで、来客の出入りも自由だった。学生向けということで寮費も格安だったので、時給の高いバイトをすればなんとか人並みの暮らしを送ることができた。