セカンドパートナー

 一人暮らしを始めると同時に、黒かった髪を染め、メイクも覚えた。親と居た頃の陰気な自分を捨てるため、変わりたかった。毎日私服で通学しなければならないので服にも気を使った。

 見た目が少し派手になったくらいで中身はそんなに変わらないのに、周囲には陽気な人というイメージを与えた。そのせいか、高校時代より人が寄ってくるようになった。人の外見が周りに与える影響は大きいのだなと、初めて知った。

 大学の頃は環境が環境だったし、同じ大学に入った美季といつも一緒にいたので、それまでは目立つタイプではなかった私もだんだん変わり、積極的な言動ができるようになっていった。

 高校までと違い、固定のクラスがない開放感も手伝っていたかもしれない。全てが自由で、理想そのものの生活。

 大学はもちろん、バイト先でも男女ともに出会いは多く、次々と新しい友達ができた。

 二十歳になる前から酒を飲みに行ったり、誘われるがままパチンコ屋や雀荘、クラブなど、それまで全く興味のなかった場所に行くことが増えた。はじめは違和感しかなかったけど、それはそれで楽しいかもと思った。

 美季と共に同じサークルの男の先輩のアパートに泊まって夜通し人生について語り合ったり、友達やその知り合いと大人数で山や海にバーベキューに行った。半年に一度はサークルの人達と旅行にも行った。

 高校の時には考えられない生活。毎日が刺激的で楽しくて、自分が生まれ変わっていく感覚に酔いしれた。


 でも、いいことばかりではなかった。表でいい顔をしながら陰で悪口を言う女の子はどこにでもいたし、告白を断ったことで逆恨みして私の評判を落とすようなデマを流す陰険な男の子もいた。

 宗教や化粧品等のマルチ商法に勧誘してくる人もいた。

 そういう事実にぶつかるたびショックを受け、ひどく寂しい気持ちになった。

 それでも、実家に帰りたいとは微塵も思わなかった。暴言や無視という手段で苦しめてくる両親の元へなど、誰が好き好んで戻るものか。

 一人暮らしの大学生活を送るうちに、長年の呪縛が解けたような気がした。父による物音や怒鳴り声に怯えず眠ることができるありがたさを知った。

 気を遣ってばかりで苦手意識しかなかった夜が、いつしか安らぎの時間に変わっていく。幸せだった。

 美季以外、自分の過去を知る人がいない大学。変わるため、自分の知らないありとあらゆる新しいことに飛び込んでいった。良くも悪くも、若かった。

 大学4年間は楽しかったし、振り返ると楽しい思い出の方が多いけど、人間の善悪というものを知るには充分な時間だった。

 学生のうちに色んな経験をし、社会に出て、結婚し、行き着いた答えがある。

 私にとって、本当に心許せる友達が一人でもいてくれるのならば、他にそういう存在はいらない。

 自分が自分らしく、無理なく生きるために、今いる友達以上の友達は必要ない。そう思っている。

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