セカンドパートナー
あれは、高校1年の冬のことだった。
「書き順が違いますよ。正しく書けるまで何度でもやり直しです! あなたいつもいい加減な気持ちで私の授業受けてるでしょう? 見てれば分かるんですよ」
書道の授業で先生に注意され、嫌な気持ちになった。いつもそう。なぜか私にばかりしつこく指摘してくるその女教師に反感もあった。
やっぱり書道なんて嫌いだ。この世からなくなればいいのに。
記憶にないほど幼い頃から、そういう不満を胸の内にため込むクセが身についていた。同じクラスの友達らが気軽に日常生活のグチを言い合う中、私だけが自分のことは話せず、作り笑いで周囲の会話に合わせていた。
それで難なくやってこれたし、これからもそれでいいやと思ってた。自分のことは話したくない。
そんな私を変えてくれたのが並河君と羽留(はる)の存在だった。
羽留とは予定が合うと放課後に服を買いに行ったりピアノの練習に付き合ったりなどして日々親しくなっていったけど、並河君とはそう仲良くなることはなく、廊下などで偶然会った時などに軽く話す程度の関係だった。
この頃は、まだーー。
書道の授業での一件を引きずった、その日の放課後。
時々そうしていたように羽留と帰りたい気分だったけど、残念なことに彼女は今日ピアノのレッスンがあるから誘えない。
嫌なことは早く忘れるべきだと思いながら、一人くさくさ歩いていると、
「詩織!」
寒空の下、校門前で誰かを待っていた並河君は、私に気付いて顔を覗き込んできた。
「何かあった?」
澄んだ瞳に見つめられ、胸がドキッとした。人に気持ちを見抜かれたのは、これが初めてだった。