セカンドパートナー
「考えてみたら当然だよね。世界を駆け巡りながら絵を描いて、絵本の作画もして、そんな人が好きな人のひとりやふたり、いないわけがない」
「……詩織」
「そうでなくても、女性が放っておかない」
性格も容姿もかっこよくて、人の気持ちに敏感で、同い年の人より落ち着いてて、時に頼もしくて、人の心を動かす作品を描く。
そんな人、もう、きっと二度と会えない。
「そういうことならもう、本当に並河君を忘れなきゃいけないと思う。今までいつも心の奥で想ってたけど、今度こそ叶わないって分かった。片想いなんてつらいし、みじめになるだけだよ……。第一、私、結婚してるしね。独身の時とは違う」
結婚指輪を主張するように左手を軽く振り、苦笑する。今はこれが精一杯の笑顔。先日の書道教室からずっとつけている枷(かせ)。
並河君と秋月さんの関係を壊さないよう、大切な人の幸せをひそかに見守るのが、今できる唯一のこと。それ以外、できることはない。
並河君は、きっとまた絵を描いてくれる。才能があるのだから。それを、私はただ、静かに応援したい。今さら告白して、彼に精神的負担をかけたくない。
「聞いてくれてありがとう。ごめんね、重たい話ばっかして。そろそろ暗くなるし、帰ろっか」
立ち上がりバッグを手にすると、
「……詩織のことだと思う」
席に座ったまま、羽留はまっすぐ私を見上げた。
「並河君が忘れられない人、詩織のことだよ。間違いない」