セカンドパートナー

「信じたくないけど、描けなくなった並河君の気持ちも分かる。ピアノも精神状態が影響するから……。弾く人の内面が演奏にさらけ出されてしまう。高校の時も、短大の時も、それで何度も苦しい思いをした。弾けなくて、つらくて、練習しても成果が出なくて、なのに人前でそれをさらさなきゃならなくて……。何度もやめたいって思った。絵も、多分それと同じ」
「初めて聞いたよ。そうだったんだね……」

　当時の羽留の気持ちを想像したら泣きたくなった。

　いつも明るくて優しい羽留。高校の時も、音楽科の中でずば抜けて才能があるとウワサされていたから、どんな曲でも難なく弾きこなす子だと思ってた。

　ピアノのことで弱音を吐くのを見たことがなかったし、歌いながら即興で流行りの曲をピアノ伴奏したり、並河君や私のリクエストにも嫌な顔せず楽しそうに応えてくれた。

　胸が痛み、謝った。

「話してくれてありがとう。あの時、羽留の苦労とか、そういうのが全然見えてなかった。ただ、楽しくて……。いつもがんばってたんだよね。そういうの知ってたはずなのに、リクエストとか言って無理させてたと思う。本当にごめんね」

　何の取り柄もない私は、並河君や羽留の才能に憧れ、魅せられ、夢中になっていた。今でも二人のことが大好きで、それぞれの夢を、特技を、大切にしてほしいと願っている。

　羽留は微笑した。もう、いつもの彼女だった。

「無理なんて、一度もしたことないよ」
「本当に……？」
「詩織のおかげで、高校の三年間乗り切れたんだと思ってる。音楽科の課題、バカみたいに多かったしさ」
「それは羽留ががんばったからだよ。私はただ楽しみに行ってただけ」
「それでいいんだよ」