セカンドパートナー
何度かうなずき、羽留は言った。
「高校の時からそう。詩織は人を優しい気持ちにさせる才能があるよ。それは誰もが持てるものじゃないし、努力してどうにかできるものでもない。並河君もきっとそう思ってたはず」
「羽留、そんな風に思っててくれたの?」
嬉しかった。そんな風に言ってくれる人がいるなんて……。
10代の頃は、根拠のない自信が無意識のうちに膨れていった。めまぐるしい毎日の中、友達ができて、知り合いも増えて、親から離れ自活して、学費も自分で払って、一人で何でもやれる!
万能感すら覚えた。自由な環境が、そんな気持ちを増幅させた。
でも、結婚して、義親と衝突し、理解されないことが増え、世の中は世知辛いものなんだと思い知った。
根拠のない自信は瞬く間に砕け、等身大の無力な自分を知り、打ちひしがれた。
書道教室では若いと言われたけど、最近は義家族から年寄り扱いされる。
去年の春、優人の四つ下の弟が、数年交際してきた彼女との結婚を決めたからだ。彼女の名前はチハルちゃんといい、弟がそうだから義親からも呼び捨てにされている。26歳で、優人や私より7つ年下。
義家族の中で最年少の彼女は、法事や食事に行く時など、何かと義親に優遇される。
若いね。可愛いね。これ持っていきなさい。チハルは詩織ちゃんより若いんだからこっちに座りなさい。
若さを理由にチハルちゃんを妬んだりはしないが、わざわざ人が不快になることを口にする義親に腹が立った。それでも優人は、私がその状況に傷ついていることに気付くことなくチハルちゃんにいい顔をしている。
結婚報告と同時に告白したことらしいけど、チハルちゃんは実はシングルマザーだそうだ。前の彼氏との間に授かった子供がいて、その子は6歳になる。
偏見を持つことなく義両親はチハルちゃん達の結婚を認めたものの、それから私に対する「子供作れ」のプレッシャーを強く感じさせるようになった。