セカンドパートナー
「詩織には何でも話してきたけど、このことだけは言えなかった。現実が重すぎて、悲しくて、口に出すのがこわかった」
「お母さん、無事で本当によかった……」
「この前実家帰ったら、詩織に会いたがってたよ」
「今度行くね。久しぶりに」
「いつでも来て」
何かを探すような間の後、私は言った。
「そのこと言えなかった気持ち、分かるよ。私も、親のこと羽留には話せなかった。どうしようもない親でさ、色々きつかったよ。羽留にもウソついてた。ごめんね」
「……ううん。いいよ。そういうの、高校の頃はなおさら口に出しづらいよね。人の家庭の事情なんて、あの時はあんまり分からなかったしさ」
高校の頃、私との電話で父の怒鳴り声を聞いた時のことを、羽留はきっと覚えてる。翌日心配してくれた羽留に私がウソをついたことも。
だけど、知らないフリをしてくれる。羽留みたいな人に、いつかなりたい。
お母さんの自殺未遂について、羽留はその時の心境を話した。
「あの翌日も、その次の日も、翌週も、ピアノ全然弾けなくなってさ……。先生には練習不足だって怒られるし、お母さんの苦しむ姿思い出したら練習中も涙が出てきて、ホントつらくて……。ピアノも学校も辞めたいと思った。そんな時、詩織が並河君を連れて音楽室に来てくれた。練習に付き合ってくれた。綺麗な音って言って楽しそうに笑ってくれた。ひとりじゃないんだって思えた。そしたら、不思議なほど回復したよ。胸の痛いの」
「そうだったの……」
「だから、信じて。詩織がどんな道選んでも、軽蔑したり偏見の目で見ない。たとえ他の人が詩織の判断を否定したとしても、あたしだけは最後まで詩織の味方だから」
それは、既婚者でありながら並河君と恋愛関係になったとしても見守る。そういう意味に聞こえた。