セカンドパートナー
会話を続けようにも緊張してしまい、次の言葉が浮かばない。
それもそうだ。ここのところ人との会話が限定的で、まるっきり人と関わる機会がない。他人との話し方を忘れてしまっている…!
日常の半分以上を費やしている業務委託のチラシ配りは、一人でやる仕事。チラシは家に送られてくるから、会社の人とも面接の時に会って以来、メールで連絡し合うだけ。
ポストにチラシを入れる時まれに住人と出くわすけど、会話という会話はなく、チラシについて軽く説明しチラシ投函の許可を得る程度。
義親とは結婚当初色々あったので、今では距離を置いて付き合っている。何かあっても義親からの連絡は旦那の優人(ゆうと)に受けてもらうようにしているし、母の日や法事など欠席を許されない行事以外は会いに行かないようにしている。
現在、温度のある交流をする相手は、羽留と美季(みき)、二人の女友達だけ。そういえば、最近美季と連絡取ってないな……。
一人思いふけっていると、並河君が生徒さん達に言った。
「鍵、開けますよ」
「おお、奏詩(そうし)君、久しぶりじゃな」
やっぱり、並河君もここの生徒なのだろうか? おじいさん方に慕われていた。
そういえば、高校の頃もそうだった。
学年のほとんどの生徒が「アイツの授業解りづらい! ボケてんじゃねえの」と言う初老の男性教師に対し、並河君だけが人当たりよく接し、そして可愛がられていた。
無理にそうしているわけじゃなく、並河君はその先生との関わりを心底楽しんでいるようだった。