セカンドパートナー

『俺のせいなんだ、おばあさんが亡くなったの……』

 悲しい声で並河君は言った。

『高3の終わりから屋敷のアトリエの屋根が雨漏りするようになってた。おばあさんは絵を描いてる時に雨で汚れるんじゃないかって心配してたけど、雨漏りっていっても部屋の隅だけで課題には支障なかったし、高校卒業したらあそこはもう使うことないからそのままでいいって伝えたんだ。大学入ったら近くに部屋借りることに決めてたから、なおさら』

 並河君の大学とおばあさんのお屋敷は正反対の方向。おばあさんの顔を見に行くことはあっても、アトリエはもう使わない。

『詩織に呼び出された日、おばあさんが亡くなったって連絡受けて、親と一緒に病院に行った。頭を強く打ったのが死因だって医者に言われた』
「それって……」
『うん。おばあさん、アトリエの屋根に登って雨漏りした部分を修理しようとしてくれてたんだ……。子供の頃は親と一緒にそういうことよくやってたって言ってたから業者を呼ぶまでもないって思ったんだろうな……。前日の夜に小雨が降ってたから屋根は濡れてた。それで足を滑らせて……』

 おばあさんもきっと分かっていた。アトリエの屋根を直す必要はないこと。

 それでも直そうとしたのは、大学生になっても、並河君に絵を描きに来てほしかったから。高校の時のように友達を連れて、賑やかな時を共有したかったから……。

 羽留や私が帰る時、広い庭を歩き門前に出るとおばあさんは必ず最後まで優しい笑顔で見送ってくれた。人に安心感を与える笑い方。だけど、どこか寂しそうに見えたのを強く覚えている。

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