セカンドパートナー
「そんなことない。香織はよくやってるよ」
「ありがとう、奏詩」
「じゃあ、俺はもう行くから。夕方の便でロンドンに向かう」
「電話するね」
「ああ……」
かつて私を励ましていたのと同じように、秋月さんの背中も押すんだね……。
「詩織も無理せず頑張れよ」
去り際、並河君がこっちを向いて言ったセリフに、私は答えられなかった。本命彼女との会話のついでみたいに感じて……。イライラした。
気持ちのやり場がなく、モヤモヤする。
並河君の姿が見えなくなると、秋月さんが世間話のノリで尋ねてきた。
「中川さん、奏詩と知り合いだったの?」
「はい。高校の時の同級生で……。会うのは卒業以来なのでビックリしてたんです」
こんな気分の時でも、変な誤解をされないよう彼女に気を遣ってしまう自分に、まいった。
「そっか、そうなんだね……。中川さんには恥ずかしいところ見られちゃったね」
同い年だからか、それとも並河君との会話の余韻が残っているのか、最初敬語だった秋月さんは私に対して砕けた口調になっていた。
「同級生の方なら知ってるかもしれないけど、彼、画家をしているの」
「ええ、他の同級生から伝え聞いてます」
本人と月に何度かメールをしていることは言わなかった。
「2年前、ボストンの個展で彼の作品を見たことをキッカケに付き合うことになったの。彼の絵に一目惚れってとこかな。でも、奏詩はあの通り多忙な身だから、会えるのも二ヶ月に一度あるかないかで……」
寂しそうに、だけど愛しさを込めて笑う秋月さんは悔しいくらい可愛くて、嫉妬してしまう。