セカンドパートナー
胸にじわじわ広がる嫌な感情を押し込めるように、私は穏やかな顔を作った。
「ああして仕事先に会いに来てくれるなんて、愛されてる証拠ですよ」
「そうだといいけど、彼は謎も多い人だから……。付き合ったはいいけど、深く語り合う時間もないしね。あ、ごめんなさいっ。教える立場のクセに、いつの間にか自分の恋愛相談なんかしちゃってた……! さっきから変だね、私。本当にごめんなさい」
「いえ、全然気にしてませんから」
ーー詩織はすぐそうやって隠すーー
高校時代の並河君の声が、耳の奥に響いた気がした。
ーー隠してない。気のせいだよーー
幼い頃の強がりな自分が、再び顔を出した。
私の態度に安心したのか、秋月さんはこんなことを言ってきた。
「これも何かの縁。教室以外のこういう時間は、敬語なしで話そ?」
「お気持ちは嬉しいですが、今日は体験だけのつもりなので。生徒になれるかどうか、体験してみないと決められないですし……」
「生徒になって下さい! 頑張って指導させて頂きますから!」
「でも……」
ここまで言われておいて途中で投げ出すことになったら申し訳なさすぎる。現に書道教室をやめた過去があるだけに、返事に困った。
「私、詩織さんと友達になりたいんです」
秋月さんの目に迷いはなかった。
そんなこと面と向かって言われたのは初めてだ。羽留や美季、並河君とも、口約束して友情を築いたわけじゃない。
秋月さんの言葉に裏を感じてしまう。こんな素敵な女性に親友という存在がいないわけない。恋愛相談なら私ではなくそういう相手にしたらいい。
いつの間にか下の名前を呼ばれていることにも違和感を覚えた。