セカンドパートナー
沈黙の中、同じ夜風に当たる。
雪が降りそうな、そう、これは懐かしい冬の匂い。高校の時、並河君と一緒に何度もこの風を感じた。
「……こんな風になりたくて結婚したんじゃない」
「……うん」
「私には何もないけど、強く、優しく、幸せな人になりたかった。子供はほしくない、ずっとそう思ってたけど、愛されて育った人と結婚すれば、そのうち考え方も変わるかなって、ほんの少しだけ思ってた」
実際、そんなにうまくはいかなかった。私の気持ちが頑ななまでに変化せず、時間だけが流れていった。
こうして並河君と話していられるのも、今夜が最後。現実はとことん厳しい。
でも、少しだけ救われた。
息を切らせて、靴もちゃんと履かないまま、並河君が追いかけてきてくれた。それだけで、これまであったつらいこと全て忘れられる気がした。
並河君と関わった日々を胸に、優しい思い出を糧に、これからたくましく生きていく。生きなければならない。
「そろそろ戻って? 秋月さんが心配する。結婚、おめでとう」
口にしたら、心から祝福できるような気がした。
並河君から返ってきたのは、思わぬ反応だった。
「……!!」
腕を強く引き寄せられ、頭を守るように抱き寄せられる。私は並河君の腕の中にいた。
「……幸せだって聞いてたから、手放そうとしたのに」
並河君は泣いている。
優しい匂いがした。あったかい。
この腕を独り占めしている秋月さんが死ぬほどうらやましい。私もこの腕がほしかった。他には何もいらない。