セカンドパートナー

 そういうことを言われても、まだ現実味を感じられなかった。私に不倫はさせたくないと言った並河君の言葉が、胸に残っているから。

 どれだけ好きと伝え合っても、私達の未来は交わることはない……。並河君が独身を貫いたとしたって。


 意外と時間が経っていた。もうすでに午後9時を回っている。駅のホームも電車の中も空いていた。

 はじめから、私を連れ出すつもりでアパートを抜けてきたらしい。並河君は持っていた財布を出し二人分の往復切符を買うと、優しい仕草で手渡してきた。お礼を言い、受け取る。

 こういうところがいい。昔からそう。並河君は物を丁寧に扱う人。

 暖房の効いた車内はがらりとしていた。

 誰もいない、開放的なこの感じがよかった。サラリーマンや学生が三人乗っているけど、どの人も周囲に無関心そうで、スマホを見たり寝たりしている。

 結婚してから、優人以外の男の人と二人で電車に乗ることはなかった。義家族やその関係者に見られはしないか少し気になったけど、優人とはもう別れるし見られてもいいやと開き直った。

 かたく手をつないだまま私達は並んで席に座った。

「懐かしいね、こうやって一緒に電車に乗るの。もう、並河君とはこういうことできないと思ってた」
「そうだよな。詩織には旦那さんがいるしな」
「……高校の時に戻りたいね」
「時間戻す機械とか開発されたらいいのにな」

 今を濃密なものにしたくて、ひたすら会話を重ねた。そうしていないと、すぐ現実につぶされてしまう気がした。

< 225 / 305 >

この作品をシェア

pagetop