セカンドパートナー
「こういうのは、ダメ……!」
ギリギリのところで理性が働いた。
並河君は分かっていると言いたげに微笑むだけで、何も言わない。
その指先で私の頬に流れた涙を拭い、切なげで艶っぽいまなざしを向ける。
並河君は、こんな風に触れるんだ。そんな顔で愛してくれるんだ。甘く、優しく、壊れ物を扱うように。
心臓が壊れそうなほど狂おしい気持ちになる。並河君のことが、ほしい。
言葉もなく、私達は唇を重ねた。
想像だけで終わっていたものを、たしかに全身で感じている。切なくて、もっとほしくて、悲しいほど愛しい。
「これからの詩織を、俺に託して」
たしかめるように強く私の体を抱きしめ、そう耳元でささやく並河君の声に快感と興奮を覚え、ゾクッとした。
「うん。ずっと一緒にいようね」
ようやく繋がった想いを実感し、涙が止まらなかった。並河君も泣いていた。
お互い、分かっている。私が結婚しているという、変えられない事実を。痛いほど理解している。さっきのあれはただの夫婦ゲンカで、優人と離婚する理由としては弱いことを。
それでも、会いたい。声を聞きたい。この人がいないと、自分が自分ではなくなるから。
人から何を言われてもかまわない。並河君との未来がほしい。彼を想いたいーー。心からそう思った。
恋愛事に冷めていた過去はすでに遠い日の記憶。
こんな自分がいるなんて、今まで知らなかった。
ーー涙の夜(終)ーー