セカンドパートナー
 
「こういうのは、ダメ……!」

 ギリギリのところで理性が働いた。

 並河君は分かっていると言いたげに微笑むだけで、何も言わない。

 その指先で私の頬に流れた涙を拭い、切なげで艶っぽいまなざしを向ける。

 並河君は、こんな風に触れるんだ。そんな顔で愛してくれるんだ。甘く、優しく、壊れ物を扱うように。

 心臓が壊れそうなほど狂おしい気持ちになる。並河君のことが、ほしい。

 言葉もなく、私達は唇を重ねた。

 想像だけで終わっていたものを、たしかに全身で感じている。切なくて、もっとほしくて、悲しいほど愛しい。


「これからの詩織を、俺に託して」

 たしかめるように強く私の体を抱きしめ、そう耳元でささやく並河君の声に快感と興奮を覚え、ゾクッとした。

「うん。ずっと一緒にいようね」

 ようやく繋がった想いを実感し、涙が止まらなかった。並河君も泣いていた。

 お互い、分かっている。私が結婚しているという、変えられない事実を。痛いほど理解している。さっきのあれはただの夫婦ゲンカで、優人と離婚する理由としては弱いことを。

 それでも、会いたい。声を聞きたい。この人がいないと、自分が自分ではなくなるから。


 人から何を言われてもかまわない。並河君との未来がほしい。彼を想いたいーー。心からそう思った。

 恋愛事に冷めていた過去はすでに遠い日の記憶。

 こんな自分がいるなんて、今まで知らなかった。










 ーー涙の夜(終)ーー

< 227 / 305 >

この作品をシェア

pagetop