セカンドパートナー
だからって嫌とも言えない。今後繰り返し会うことになるかもしれない人だし、私も好意的に返した。
「私でよければ……」
「社交辞令ですか?」
「えーー!?」
言葉に詰まった。普通そんなこと訊いてくる!?
美人で人懐っこくて、最初はいい人かもと思ったけど、やっぱり苦手なタイプかもしれない……。
「顔、引きつってますよ」
甘い声でそう言うと同時に片手で頬をやんわり触られ、ゾクッとした。彼女の手の冷たさのせいではない。
「まともに人と話すの久しぶりだから、緊張してるんですよ」
「そうなんだ。詩織さん、お仕事は何を?」
「しがないパートです」
ウソをつき、詳しいことは話さなかった。出会ったばかりの人に自分のことをアレコレ話すのは趣味じゃない。
あと、ほんの少しの見栄もある。
秋月さんは講師として教室を開くくらい書道の道を極めている。きっと幼い頃からその道を歩いてきたのだろう。世間の片隅でひっそり生きる私の話なんて、彼女からしたら会話の種にもならないくらい退屈なものに決まっている。
才能溢れる者同士、お似合いだよ。並河君と秋月さんはーー。
おかしいな。嫉妬するなんて……。
いつか並河君が結婚報告をしてきたら、一緒に喜ぶのはもちろん、お祝いを贈って心から祝うつもりだった。恋愛相談をされるとしても、彼の話ならちゃんと聞ける自信があった。
私達は友達だから。
それなのに、並河君が秋月さんと付き合っていると知って、嫌な感じに胸がざわついてしまう。
書道の体験教室に夢中になろうとしても、意識は秋月さんにばかり向かう。
彼女に教えてもらっている最中も、愛想笑いでサラッと対応し、さっきのようなことにならないよう気を張っていた。……明るい対応に反し冷たかった彼女の手。