セカンドパートナー
並河君と付き合うようになってから、週に一、二度、合鍵を使ってマンションを訪ねた。
マンションは私達の住む市ではなく、人口の多い別の市にあった。管理人不在で住人同士の交流もほとんどないようなマンションだったので、こういう交際をしていても人に知られることはなかった。
行くのはたいてい仕事が終わってからなので長居はできなかったけど、できるだけ長く一緒にいられるよう、マンションへは車で行くようにした。
並河君は毎回待っていたとばかりにそこにいて、私を抱きしめてくれた。
最初は殺風景だったマンションの室内にも、私達が持ち込んだ物が少しずつ増えていく。心のつながりが深くなっていることの証明みたいで、幸せを感じた。
その間、彼が絵を描く姿は一度も見なかった。
私は彼に日常の話を聞いてもらい、成長させてもらっている。私だって、彼の役に立ちたい。
並河君の仕事の話も聞きたいけど、デリケートなことだし、人には話したくないのかもしれない。プロの芸術家として、軽々しく話せないものをたくさん抱えているのかもしれない。彼が自発的に打ち明けてくれるまで待とう。
そう思っているうちに、1ヶ月という並河君の休暇も終わりに近づいていた。
どうにかして、並河君を助けられないだろうかーー?
美季から電話が来たのは、優人が上司とのゴルフでいない土曜の朝。並河君のために何ができるのか考えていた時だった。
『久しぶりー! 今、ウチの親に子供見てもらってるから、久しぶりに外で会わない? ご飯食べがてら』
「ああ、うん……。分かった。いいよ」
前までは「うん! 今すぐ用意して出るね」と、明るく乗り気で返せたのに、今は美季に会うのをためらった。
最近美季とは会えずにいたし、LINEも全然していない。その間に私は変わった。並河君というセカンドパートナーを得て、恋に浮かれている。
このことを知ったら、美季は怒るだろうーー。