セカンドパートナー
「ありがとう。でも、今日は一人で作りたいからあっちで待ってて?」
「しゅん……」
落ち込みを表現する効果音をジョーダンぽく口にし、
「分かった。待ってる。何かあったらすぐ呼んでな」
並河君は名残惜しげな様子でリビングに戻っていった。
田中さんにマフィンを渡すよう頼まれたあの日、調理実習で作ったカルボナーラ。
当時の記憶と羽留に借りたレシピを頼りに必死で作った。授業中は作業分担するから簡単に思えたけど、カルボナーラひとつ作ることすら私には大きな難問のように感じた。自分で作ってもおいしくないので、パスタは店でしか食べたことがない。
普段はだいたい仕事で疲れているので、食事は惣菜ですませてしまうことも多いし、手をかけるといっても野菜炒めやカレー、味噌汁や麻婆豆腐といった、市販の調味料で作れる手軽で無難な物にしか手を出さない。
でも、どうしてだろう。今はすごくがんばりたい。難しくても、絶対完成させたい。料理に夢中になるのはこれが初めてだった。
並河君の心が元気になるように。絵のことで悩まずにすむように。
私にはこのくらいしかできないけど、並河君においしい物を食べさせてあげたいーー!
「なんでこうなる!?」
クリームソースの味がなかなか濃くならず焦ったけど、なんとか完成。
ものすごい達成感で、気持ちが良かった。
「お待たせ〜」
明るい気分で、並河君の待つリビングのテーブルに二人分のカルボナーラを運んだ。
「おお! カルボナーラだ! 手作りできるなんてすごいな。うまそう!」
子供みたいにはしゃぐ並河君がとてもいじらしい。不慣れなことをするのは大変だったけど、挑戦してみてよかったと思った。
「なんとか成功したよ。味見はしたけど、並河君の口に合うかどうか……」
「詩織の手料理ならたとえ失敗作でも食べるよ。いただきまーす!」
丁寧で綺麗な食べ方で、並河君は私よりだいぶ早く完食した。
「食べ終わるのがもったいないくらいおいしかった。優しい味だったよ。ごちそうさまでした」
「口に合ったならよかった」
昔、中華まんやアイスを食べた時も、この間やった鍋でも、並河君はがっついた食べ方をしなかった。だから、今回の食べ方は意外だった。