セカンドパートナー
うっかり踏み込んで、並河君に嫌われるのがこわい。
ここへ来て、心の底から並河君の気持ちを信用していない自分がいることにガッカリした。こんなにも好きなのに、彼を想う気持ちと信頼度はうまく比例してくれない。
並河君はそっと私を抱き寄せた。
「そうだな……。どんなに愛しい相手でも近付けない距離がある。愛しいからこそ触れられない領域っていうのかな」
「……だよね。そういうこと」
「俺も同じだよ。詩織に嫌われたくない。死ぬまで好き合っていたい。だけど、だからこそ知りたい。詩織の愛し方も、心も、全部」
並河君は私の背を押し、彼がアトリエとして使う予定の部屋に誘導した。マンションのアトリエ。ここへ入るのはこれで二度目だった。
壁に沿って立て掛けられたたくさんの真新しいキャンバス。以前から使っていたのだろう絵の具や筆。並河君の仕事に必要な物が整頓された状態で置かれていた。
普段から絵を描いていれば、道具の置き場所はもっと乱れているはず。お屋敷のアトリエもそうだった。絵を描けない並河君の苦痛を改めて感じ、悲しくなる。
画材とは別に、初めてこの部屋を見た時になかったものが置いてある。それに気付き、全身が熱くなった。
「ベッド……?」
真っ白のシーツが敷かれた、白木素材のベッド。使った感じはせず、汚れひとつなかった。新品らしい。
「詩織が初めてここへ来てくれた翌日、すぐに注文したんだ」
「お屋敷のアトリエにも、こういうベッドはなかったよね。どうして置いたの?」
尋ねる声が緊張で震えた。恥ずかしくて並河君の顔を見れない。