セカンドパートナー
「詩織を描きたいと思ったから」
「わ、私!?」
「モデルは椅子に座ることが多いけど、ベッドを使う場合もある。モデルを寝そべらせることで様々なポージングのデッサンを描けるからな」
並河君は当然のことのように言い、背後から私の肩に手を置いた。そっとした手つきなのに、心臓が飛び跳ねるかと思った。
高校の頃、並河君が在籍していた美術科では裸婦デッサンの授業があったらしい。学校側が高いお金を出してプロの女性モデルを呼んだそうだ。普通科の男子が嬉々とウワサしていたのを聞いたことがある。
並河君は授業に関する色々な話をしてくれたけど、裸婦モデルの件については口にしなかった。女子の私に気を遣ったのかもしれない。美術科の生徒にとっては芸術でも、思春期の高校生にはヌードモデルの話なんて刺激が強過ぎる。
美大でもそういう授業はあったのだろう。
「私には無理だよ……」
顔が真っ赤になってしまう。セミダブルのベッドが威圧してくるように感じた。
「モデルなんて、やったことないし…!」
並河君の前で裸になるなんて、キスをするより恥ずかしい! 断るために、口早に言った。
「それに、並河君、風景画専門の画家でしょ? 人って描いたことなくない?」
話題をそらすためってわけではないけど、話の流れ的に、今ならそれとなくスランプについても訊ける?