セカンドパートナー
私は必死に並河君の顔を見た。
「並河君は空を描くのがうまかったよね。昔からずっと。だったら空を描いてみたら?」
「詩織が撮影の被写体にしてるものだから丁寧に描きたかった。空だけは、いつもこだわって描いてた」
窓辺に行き、並河君は外を見ながらつぶやいた。夕方過ぎの空に、飛行機雲がくっきり浮かんでいる。
「芸術家でいられたのは、詩織のおかげ。詩織を通して色んな人を見て、人間の持つ色んな感情を知って、絵の世界で表現することができたんだ」
「……そんな。私はただメールのやり取りをしていただけで……」
「長年そういう関係だったよな。直接会話した量よりメールの回数の方が多いと思う」
並河君の声は沈んでいった。
「それ以前の……。高校の時の思い出を糧に描いてたんだよ。でも、もう、思い出だけでは限界がきてたんだ。書道教室で詩織と再会して、意識しないようにしてたことが頭の中を支配するようになった。今の詩織の結婚生活を……。優人さんに笑いかける詩織を、彼に抱かれてる詩織を……。そういうのを想像したら、苦しくて、泣けてきて、つらいから無心になろうとしても頭の中に見たことのない詩織が飛び込んでくる。それから筆を持てなくなった……」
並河君は振り返り、私を見つめた。
窓枠にもたれてうつむく彼の顔は、差し込む夕日のせいか、ひどく切なげで妙に色っぽい。深刻な話の最中なのに、不謹慎にもドキドキしてしまう。
「情けない。プロの芸術家が聞いて呆れるよな。この前、鍋の席で優人さんと話してる時、ものすごくみじめになったよ。この人は俺の欲しい物全部持ってる、だから幸せそうに笑うんだ、って……」
あの時は秋月さんの彼氏として、気さくな感じで優人と話していたのに、並河君も実は嫉妬していたの……?