セカンドパートナー
少し前の自分に比べ、人に対して寛容になったのかもしれない。冷静にそう考えられるようになったのは並河君のおかげだった。
彼が仕事を再開する前の日、実の親のことを全て打ち明けた。愛に飢えた両親から暴力を受けていたことや、今は両親と疎遠にしていること。
「親のこと、理解はできても、ずっと寂しかったんだろ?」
そう言い、並河君は抱きしめてくれた。安堵の涙が止まらなかった。優人には親との関係をこういう風に理解してもらえなかったので、よけい嬉しかった。
心の中ではずっと、本気で私のことを心配し自分の事のように受け止めてくれる相手を求めていた。ダメな部分もひっくるめて愛されたかった。
「今でも、心の中には子供のままの詩織がいると思う。彼女のことを責めずに受け入れてあげよう。俺も一緒に抱きしめるから」
並河君の存在がなかったら、私は今でも愛をほしがるばかりの子供だったかもしれない。それで人を傷つけていたかもしれない。
今さら親に歩み寄ろうなどとはとても思えないけど、並河君が愛してくれるおかげか、記憶から消そうとしていた親のことを時々思い出すようになった。
自分達が苦労する原因を何でもかんでも子供のせいにする最悪な親だったけど、彼らが産んでくれなければ私は並河君と出会えなかった。
そう思うと、今は無理でも、未来でなら少しは赦(ゆる)せそうな気がする。並河君と本当のパートナーになる頃にはーー。
秋月さんが開く書道教室には、今でも根気よく通い続けている。
鍋の時に色々あったのでやめようかと思ったし、優人や並河君にも無理はするなと言われたけど、あえて続ける選択をした。自分のために。
ここでやめたら、秋月さんが疑っていた並河君との恋仲を肯定してしまうようなもの。下手したら関係を壊されるかもしれない。
並河君とセカンドパートナーでいるため、書道教室へ通った。