セカンドパートナー
他の生徒の目もあるので、教室で会っても秋月さんは普通だった。彼女は少しやつれた。
書道のこと以外で秋月さんと会話することはなかったけど、時々視線は感じた。
最近、教室の時間が終わり他の生徒がいなくなると、秋月さんに呼び止められた。
「奏詩の気持ちが私にないのは知ってた。もう吹っ切れてる。終わった恋をいつまでも引きずるほど無駄なことはないしね……。
こうして詩織さんが教室に来るってことは、詩織さんと奏詩はただの同級生なんだって思うしかない。でも、私はあなたのことが大嫌い」
「私も秋月さんのことは大嫌いですよ。勝手に変な勘違いされて迷惑だったし、旦那に別れるよう勧める先生なんて最低です。これから先も優人と別れることはないし並河君とも特別親しくなることはないのでご安心ください。先生の指導は好きなので、これからもよろしくお願いします」
息をするようにウソがつけるようになった。それでも私は汚れない。
並河君のくれたフローライトが、胸元で揺れ続ける限りーー。
《来週、日本に帰るよ。詩織の都合がいいなら、会いたい。》
並河君と会える!
それが分かっただけで胸が弾み、気持ちにハリが出た。
過去の苦い思い出ゆえ、私達が苦手としているマフィン。お菓子作りなんて片手で数えられるくらいしかしたことないけど、並河君が帰ってくる日を見はからって手作りしてみようかなと思っている。克服するために。
並河君との交際で、料理が好きになってきた。どこへ行っても、お酒を無理に飲まなくなった。
色んなことで傷ついた心が、日毎に癒されていくのが分かる。
疑ったり不安になるだけの恋はもう終わり。これからは、お互いを高め合う恋を、並河君としていく。