セカンドパートナー
奏詩は、自分のご両親にだけはセカンドパートナーの存在を話していた。
世間であまり表立っていない関係の在り方に驚きはしたものの、ご両親は私とのことを応援すると言ってくれたそうだ。
それでも、優人と生活している間は、けじめとして奏詩のご両親に会うわけにはいかなかった。
奏詩との入籍前にすぐ挨拶したかったけど、彼のご両親も優人の親とそう変わらない時期に亡くなってしまった。
かつてお世話になった奏詩のおばあさんや奏詩のご両親のお墓へ、奏詩と共に結婚の報告をしに行った。おばあさんのお墓へは、これまで何度か訪れていた。奏詩や羽留と三人で。
「おばあさん。お父さん。お母さん。どうか、これからも私達のことをよろしくお願いします」
『おめでとう』
おばあさんの声が聞こえた気がした。お屋敷で頂いたお茶の香りが、頭の奥で鮮やかによみがえる。優しい風が吹き、桜の匂いがした。
おばあさんのお屋敷は、私達が40代になる頃、奏詩のご両親の意見で駐車場になったが、アトリエの建物だけは今も残っており、奏詩が管理している。
フローライトの誓いは守られた。
奏詩との新婚旅行は、フローライトの原産国のひとつであるノルウェーに行こうと計画している。自然豊かな国だ。
首都のオスロにある国立美術館には、有名な『ムンクの叫び』があるし、アーケシュフース城など、芸術を感じる施設が多い。
30代の頃コンクールに応募した空の写真が小さな賞をもらえたことで、細々とだが、写真家としていくつか作品集を出すことができた。私が死んだ後も世の中に残り続けるこの作品集らを、自分の子供のように思っている。
ノルウェーで撮る空はどんな色をしているのだろう。
私達の左手薬指には、長年ネックレスとして身につけてきたフローライトが輝いている。指輪用に、奏詩の美大時代の友人が加工してくれた。
奏詩と付き合うことですっかり芸術の虜になった私は、これから彼と共有できる日常に、堂々と愛し合える日々に、人生最大の幸せと喜びを感じていた。
《完》