セカンドパートナー

 ホッとしたような、少しガッカリしたような、どちらとも取れない声音で、並河君は言った。

「俺の無責任な発言のせいで天使さんに迷惑かけたなって思ってさ。そのうち耳に入るかもしれないから、先に謝っとくよ。ごめんね」
「ううん、気にしないで」

 笑って答えた。珍しく、作り笑いじゃない笑顔が浮かんだ。

 初めて関わる相手のことをここまで気にしてくれるなんて、同い年とは思えないほど大人だなぁと思った。普通、自分の言葉が原因のウワサだとしても、そんなウワサは流れっぱなしのまま放っておくものだ。

 そういう意味でも、並河君には好印象を抱いた。

 あと、人からアマツカさんと呼ばれるのも新鮮だった。漢字が漢字なので、昔からよく「天使(てんし)ちゃん」と呼ばれていた。特に男子はふざけてそう呼ぶ人が多かった。

 並河君が人格者のように見え、心の中で静かに感動していると、

「じゃあね、もう行くわ」

 片手をあげ、並河君は風のように立ち去った。思っていたより爽やかであっさりした人だったな。

 学校中から注目されるくらい絵の上手い美術科の生徒と聞いていたから、アトリエにこもりきりのボサボサヘアのストイックな男子を想像していた。いかにも画家! って感じの。

 だけど、実際の並河君はそばに来ると柔らかくていい匂いがしたし、髪の毛も肌も綺麗だった。健康的な雰囲気。芸術に携わる人。まさにそのいいところだけを持って歩いているような風貌。

 落ち着いた口調とキラキラした目が、とても印象的だった。

 美術科の校舎はここから一番遠いのに、わざわざ普通科まで来てウワサの件を謝りに来てくれたんだな。

 「俺の無責任な発言のせい」って言ってたけど、それがウワサの発端ってことかな? それってどんな発言だったんだろうーー?

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