セカンドパートナー
それ以来、並河君が普通科の校舎に訪ねてくることはなかった。彼とは学科も校舎も違うので、偶然会うこともほとんどなかった。
もし並河君が女子だったら、今頃もっと話すようになっていたのかな?
音楽科の羽留とそうしているみたいに家の電話番号を教え合ったり、違う学科でも校門や学食で待ち合わせて一緒に下校したり昼食を食べたり、していたかな。
不思議なんだけど、この時なぜか、並河君とはそれきりで終わる関係ではないと、予感めいたものを感じていた。
2度目に並河君と会ったのは、音楽科の校舎前だった。
音楽科の先生に用事があるから待っててと言われ、音楽校舎の出入口付近の植え込みに腰かけ羽留を待っていると、
「天使さんって『革命のエチュード』弾ける? ショパンの曲なんだけど」
と、何の前触れもなく突然訊(き)かれた。いきなりすぎる並河君の登場に驚きつつ、頑張って真面目に答えた。
「ごめん、私はピアノ弾けない。羽留なら弾けると思うけど」
「謝らなくていいよ。こっちこそ急にごめんな。いつもこの辺にいるの見かけたから、天使さんもピアノ弾けるのかと思ってた」
え? それって、前々から私のこと知ってたってこと?
胸が、知らない音を立て、頬も熱くなった。
「ピアノは昔習いたかったんだけど親に反対されて、それきり」
「そうだったんだ……」
並河君の顔色を伺ってしまった。ピアノを弾けないことにガッカリされたのかと、不安になる。
羽留にお願いしてみようか? すごくピアノ上手いから、多分大丈夫と思う!
そう言いかけた時、並河君はしみじみと語り出した。
「『革命のエチュード』、聴いたことある?」
「ないと思う」
「すっごいいい曲だから1回聴いてみ? 創作意欲が湧くんだよ」
絵のことを言っているのだと察した。話す彼の目がキラキラしているのが、なんだか嬉しかった。