セカンドパートナー

「じゃあ、悪いけどお願いしていい?」
「了解! 任せて」
「無理だけはしないでね」
「しないよ。詩織はもちろん、並河君に聴いてもらえるよう完璧な演奏に仕上げるから」

 遠慮気味に『革命のエチュード』の演奏を頼む私に、羽留は頼もしく快い笑みを見せてくれた。

 難しい曲だし音楽科の授業と関係ない話なのにこうして引き受けてくれるなんて、羽留はとてもかっこいい。

「あ、何なら、CDで一回聴いてみる? 『革命のエチュード』」
「でも……」

 せっかくの申し出だけど、ためらった。

 音楽科の教員室には、生徒に貸し出す用のクラシックCDが何種類か置かれている。ショパンやベートーヴェン、ドヴォルザークやヴィヴァルディ、メンデルスゾーンまで、様々な音楽家の曲がそろっている。

 図書館の本のように貸し出しカードでしっかり管理されているわけではないものの、今のところ紛失したことはないらしい。

 羽留のようにピアノを専攻している生徒が演奏の手本にできるように、と、何年か前に赴任してきた音楽教師が置き始めた物なのだけど、望めば私のような普通科の生徒にも貸してくれるそうだ。

 そうと分かっていても、今までは借りるのを拒んでいた。違う学科だし、ピアノを弾けるわけでもない。部外者の私が借りている間に、音楽科の子が借りられなくなったら悪いし……。

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