セカンドパートナー
「せっかくだけどやめとくよ。ごめんね」
そう言いつつ、本当は今すぐ聴きたくて仕方なかった。
並河君がオススメしてくれた曲に、深い興味が湧いていたから。
「借りる人あんまいないから、ホント気にしなくていいのに。詩織、ホントは聴きたいんじゃない?」
「そ、それはっ……」
「あはは。やっぱり。じゃあここで聴いてこうよ。プレイヤーあるしさ」
私の手を引いて音楽校舎の教員室に入ると、羽留は手慣れた感じでCDを音楽機器にセットした。
静かだった室内に『革命のエチュード』のメロディーが満ちた。
曲の最初からいきなり激しく刻まれるリズム。あっという間に意識を持っていかれた。胸がドキドキして、それと同時に、これを聴いている時の並河君を想像してまた妙な胸の高鳴りを覚えた。
2分ほどの短い曲だった。
それでも、私の中の大部分を塗り替えてしまうほどの勢いがこの曲にはあった。
『革命のエチュード』には創作意欲をかき立てられると、並河君は言っていた。絵を描かない私にはその感覚がいまいち分からなくて、切ない。
風の匂いから冬の気配を感じた時のように、同じ感覚を共有したかった。
並河君は今も美術科のアトリエに残って絵を描いているのかな……。
音楽科の校舎にいながら、私の心は美術科の校舎の方に向いていた。