セカンドパートナー

 羽留の弾く『革命のエチュード』に、気持ちを集中させた。やっぱり、ピアノを弾いている羽留はかっこいい。憧れる。

 もし子供の頃にピアノを習えていたら、今頃もっと羽留と音楽の話で盛り上がれていたかな? こうして観客ではなく、奏者として仲間になれていたかな?

 あったかもしれない架空の現在をぼんやり想像し、寂しくなった。やっぱり私、ピアノを習いたかった。

 ふと並河君の方を見ると、真剣なまなざしで羽留の演奏姿を見ていた。あまりにまっすぐなその視線に、胸が痛くなった。

 本当にこの曲が好きなんだな……。私が演奏してあげたかった。

 羽留には悪いけど、羽留の演奏より自分の心に意識がいってしまって、観客失格だった。それでも、演奏が終わって、

「どうだった?」

 羽留にそう訊かれると、

「よかったよ! すごかった!」

 ちゃんと聴いていた風を装ってしまう。少しだけ声がうわずった。

 その横で並河君が立ち上がり、羽留に拍手を贈った。

「ありがとう。いい演奏だった。CDもいいけど、クラシックは生の演奏でこそ良さを生かすし、深みがある。何度か地方のリサイタル出てたよね?」
「並河君、リサイタル聴きに行くの?」
「うん。中学の頃、親の趣味に付き合って何度か。小山さんの名前、見覚えあったんだよ。あの頃から印象に残ってたから」
「そうだったんだ。ありがとう。でも、褒め過ぎだよ」

< 91 / 305 >

この作品をシェア

pagetop