セカンドパートナー
羽留の弾く『革命のエチュード』に、気持ちを集中させた。やっぱり、ピアノを弾いている羽留はかっこいい。憧れる。
もし子供の頃にピアノを習えていたら、今頃もっと羽留と音楽の話で盛り上がれていたかな? こうして観客ではなく、奏者として仲間になれていたかな?
あったかもしれない架空の現在をぼんやり想像し、寂しくなった。やっぱり私、ピアノを習いたかった。
ふと並河君の方を見ると、真剣なまなざしで羽留の演奏姿を見ていた。あまりにまっすぐなその視線に、胸が痛くなった。
本当にこの曲が好きなんだな……。私が演奏してあげたかった。
羽留には悪いけど、羽留の演奏より自分の心に意識がいってしまって、観客失格だった。それでも、演奏が終わって、
「どうだった?」
羽留にそう訊かれると、
「よかったよ! すごかった!」
ちゃんと聴いていた風を装ってしまう。少しだけ声がうわずった。
その横で並河君が立ち上がり、羽留に拍手を贈った。
「ありがとう。いい演奏だった。CDもいいけど、クラシックは生の演奏でこそ良さを生かすし、深みがある。何度か地方のリサイタル出てたよね?」
「並河君、リサイタル聴きに行くの?」
「うん。中学の頃、親の趣味に付き合って何度か。小山さんの名前、見覚えあったんだよ。あの頃から印象に残ってたから」
「そうだったんだ。ありがとう。でも、褒め過ぎだよ」