セカンドパートナー

 否定する私に並河君は優しい目を向けた。

「だとしても、なんか嬉しかったんだよな。名前に同じ漢字を使ってる異性がいること。運命って思ったのも本当」

 並河君は言い、レッスン室を出ようとした。

「小山さん、ありがとう。そろそろ美術室に戻るよ」
「気が向いたらいつでも来てね。詩織と一緒に待ってるから」
「ありがとう。そっちもピアノ頑張って」

 あれだけ羽留と音楽の話で盛り上がっていたのに、並河君はアッサリ音楽室を出ていった。

 なんだろう……。ここ最近、短い間に並河君のたくさんの顔を見た気がする。

 並河君が音楽校舎を出ていったのを見届けるなり、羽留がやや興奮気味に言った。

「並河君、やっぱり詩織のこと好きなんじゃない!?」
「まさか。そんなこと一言も言われてない」
「そうだけど、でも、入学式の時から詩織のこと知ってたって…!」
「それはビックリしたけど……。名前の漢字が同じってだけで好きになるとかある?」
「あるよ、きっと! 告白されるのも時間の問題だと思うな〜」

 どこか嬉しそうな羽留を見て、むしょうに腹が立った。

「そんなこと言うなら、羽留の方が好かれてるって。ピアノの話もできるし、さっきも楽しそうに並河君と話してたじゃん。私はあんな風に並河君と話したことない」
「…詩織」
「……!」

 いつも明るい羽留も、この時ばかりは眉を下げ言葉をつまらせた。

 これじゃあただの八つ当たり……。羽留の悲しげな顔を見て、自分が間違っていると思った。

 だけど、どうしても素直になれず、羽留を責める言葉しか頭に浮かばなくて、私はその場から逃げ出してしまった。たまらない。

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