セカンドパートナー

「詩織、待って……!」
「……」

 羽留の呼びかけも無視して、レッスン室を飛び出した。

 嫌だ。羽留に対して黒い感情を抱いてしまう自分が。


 並河君に、私だけを見てほしい。

 ピアノの話題を、私だけに振ってほしい。

 そんなの無理って、分かってる。なのにそう思ってしまうワガママな自分に嫌気がさした。

 羽留と並河君、それぞれを独占していたい。友達として。


 夜、眠れない空に、羽留と並河君の優しい声が浮かんでくる。涙が出た。

 二人のことが大好きなのに、ちっとも素直に伝えられない。私がひねくれてるせいで、むしろ関係を悪くしている。

 どうして素直になれないんだろう。

 まっすぐな気持ちになれないんだろう。

 友達を大切にしたい。そう思うのにうまくできない。

 思い、慕い、泣いて、泣いた。

 どれだけ強く思っても自分の中の割り切れない思いはどうにもならなくて、そのことにまた、涙が出た。

 誰かを思い泣いたのは、初めての夜。



 大人になり結婚した後にまでそんな涙を流す日が来るなんて、高校生の頃は思っていなかった。









 ーー思い慕う涙(終)ーー

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