セカンドパートナー
並河君と私が友達同士ってことは、菱田(ひした)君のベル番メモを渡してきた女子達の口からじょじょに広まっているらしい。
「じゃあ、頼んでもいいよね?」
田中さんは試すみたいな口調で頼み事をしてきた。
「マフィン出来たら、並河君に渡しておいてくれないかな?」
「私が…?」
嫌だ。何でそんなことしなきゃいけないの? 自分で渡せばいいじゃん!
不快な気持ちがこみ上げてくる。強く断りたい。それなのに、中学の頃の嫌な記憶が、私の顔に愛想笑いを作らせた。
ここで断ったら、また嫌がらせされるかも……。高校生になってまであんな思いはしたくない!
「渡すだけでいいなら、いいよ」
「ありがとう! 天使さん大好き〜! 並河君って、別世界の人って感じでこっちからは話しかけづらいんだよね〜」
「大丈夫だよ。話しやすい人だから」
「そうなの!? でも、やっぱり勇気ないよぉ。……って、このままじゃいつまでも進展ないよね。それも嫌だし、じゃあ、マフィン受け取ってもらえたらこっちからも話しかけてみよっかな〜」
「そうだね。いいと思うよ」
なんだろう、この、いいように利用されてる感じ。不本意だ……。面倒なこの役目、投げ出したい。
田中さんが自分の班に戻る頃、やけに視線を感じて周囲に目をやると、何人かの女子が田中さんと私をジロジロ見ていた。私達の会話を気にしていたっぽい。
「田中さんばっか、ズルい。天使さん使うなんて」
「いいよ。うちらは自分で渡すだけだし!」
「だね。あんな子に負けたくない」
並河君にお菓子を差し入れしたいと思っているのは田中さんだけじゃなかった。私に頼むまでもなく、直接本人に渡そうと息巻いている子もいる。