パートタイマー勇者、若奥様がゆく
「本当に。洗濯物が良く乾きそうねぇ。そうそう、さっきお宅のご主人とすれ違ったわよぅ」

「そうでしたか」

「いつ見ても爽やかで素敵よねぇ。あんなイケメンと毎日いられて幸せでしょお?」

「いえいえ、奥様の旦那様だって素敵ナイスガイじゃありませんか」

「やぁーねぇ。うちも昔はイケメンの類だったかもしれないけど、今じゃポンポコリンのツルッパゲよお~っほほほほほ!」

「パートナーの重ねる歳月を間近でずっと見守れるなんて、そんな幸せなことはありませんよ。私も奥様を見習って、出来るだけ長い間主人を見守れるよう、頑張りますね」

「おほほほ、長い間一緒にいたって、喧嘩ばかりじゃあねぇ。お宅はいつも仲が良くて羨ましいわぁ。うちも新婚時代はラブラブだったんだけどねぇ」

「今も仲良しじゃありませんか。先日、お庭で一緒にゲートボールをなさっていましたよね」

「あらやだ、見てたのぉ? 私下手で恥ずかしいわぁ!」

「いえいえ。ナイスホームランでしたよ」

「おほほほ、思わず力が入ってしまってぇ」

 香川さんの奥様は、右手をカクカクさせながら笑いました。



 そのまま少し香川さんの奥様と立ち話をした後、それじゃまた、と頭を下げて、更にてくてく歩きます。

 そうして住宅街の真ん中にある公園前に設置された、ゴミ集積所に到着しました。

 ここのゴミ置き場はスチール製で扉つきの大きな形状なので、烏に狙われることもなく、お掃除も楽なので助かっています。

 その扉を開けて、ゴミ袋二つを投げ込めばゴミ出し完了。

 ……の、はずだったのですが。

 集積所の扉を開けた途端、なにやら爽やかな風が吹き抜けていきました。春の優しいお日様に照らされた、綺麗なお花畑の中にいるような甘い香りの風です。

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