パートタイマー勇者、若奥様がゆく
 エプロンの下は春らしい花柄のワンピースです。丈が膝上なのは貴臣さんの好みです。私の太腿を見て、かわいいよ、とニヤニヤする彼がかわいらしいのです。まあ私としては、足だけでなくちゃんと全体を満遍なく見て『かわいい』と言って欲しいところですが。

 今朝送り出した我が主人の顔を思い出しながら一回転した私は、おや、と首を傾げました。

 スチール製のゴミ集積所には半透明の黄色い袋が山積みになっていたはずですが、どこにも見当たりません。広さはそれほど変わりませんが、銀色のスチールは太い鉄格子に変わっていました。壁は岩っぽくゴツゴツしています。おまけに、暗いです。今日はとても良い天気で、太陽がさんさんと照って、憎きヒノキ花粉も猛威を振るっていたのに。……そういえば、鼻がムズムズしませんね?

 良く見れば私の足元には複雑な文様が描かれていて、暗闇の中にほんのりと青白く浮き上がっていました。私と王子様風美少年は、円形状に描かれた複雑な文様の真ん中に立っています。

「おや……ここはどこでしょうか。ゴミ集積所では?」

「ここは魔王の城の地下にある牢屋だ」

「牢屋? 魔王?」

「そうだ。三日前に戦場で魔王に捕らわれてしまったのだ」

「それは大変ですねぇ」

「他人事みたいに言うな。お前はここから俺を救い出すために召還されたんだぞ」

「はぁ……」

「だから、お前は俺を助ける『勇者』としてここに召還されたのだ。さあ、ここを出る準備をしろ」

「はぁ……?」

「おい、聞いているのか? ここを脱出するんだ!」

「ええと……どのようにしてでしょう」


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