パートタイマー勇者、若奥様がゆく
「お前は勇者なのだから、武に優れているはずだ。もしくは魔力が高いとか。脱出の呪文を唱えて、見事俺をガルドゥラの城へ戻してみせよ!」

 私には美少年が何を言っているのか理解出来ませんでした。

 けれども真剣な表情を見る限り、嘘をついているようでもありません。魔王やら牢屋やらは本当のお話なのでしょうか。

 だとしても。

「無理ですね」

「なっ! 何もしないうちから何を言うか!」

「だって私は普通の主婦ですから。体力も力もそこそこにしかありませんし、呪文を唱えても周りから白い目で見られるだけですよ」

「いいや、お前は出来る! 俺が召喚した勇者なのだから!」

「ですから、私は勇者ではなく主婦なのです」

「シュフーという名の勇者なのだろう!」

「残念ですね、私の名前は九条椿姫です」

「どうでもいいから俺を城に帰せ!」

 と、大声で言い合っていましたら、牢の外からガシャガシャと、鎧を着て歩いているような重い足音が聞こえてきました。途端に王子様風美少年が私にしがみ付いてきました。

 小学生でも通用する身長の私に、180センチはありそうな美少年がしがみ付く。さぞ滑稽な光景でしょうね。鏡がないから何とも言えませんが。

「ば、馬鹿者、煩くするから見張りに気付かれてしまったではないか!」

 美少年はブルブル震えています。

「煩くしていたのは貴方ですよ」

「お前が訳の分からないことを言うからだ!」

「私にしてみれば、貴方の方が訳の分からないことを言っていますよ」

「ああもう、いいから早くなんとかしろ!」

「そう言われましてもねぇ……」

 困りました。

 私はただゴミを捨てに来ただけなのに、美少年を魔王城から助け出せと言われましても、どうすることも出来ません。

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