パートタイマー勇者、若奥様がゆく
 それにしても、しがみついてくる美少年が邪魔です。足音のする牢の外を覗きたいのですが、美少年が邪魔で顔が出せません。これが貴臣さんだったら愛のジャーマンスプレックスが炸裂していますよ。さすがに初対面ですからしませんけれど。そうしたいくらいには邪魔です。

 仕方ないので王子様風美少年を引き摺りながら歩いていき、牢の外を覗きこみました。黒い鎧を着た狼が二足歩行でこちらへやって来るのが見えました。

「なんと……狼が二足歩行を。どこのサーカス団ですかここは」

「魔王城の地下だと言っているだろう! お前馬鹿なのか!」

「ええ。自慢じゃありませんが、学校の成績は下から二番目でした」

「本当に自慢にならないな!」

「でも私の下に一人もいたのですよ。凄いでしょう」

「一体何が凄いのか説明をしてみろ!」

 美少年と言い合いをしていたら、ガシャン、と音がしました。二足歩行の狼が持っていた槍を地面に突き立て、私たちを鋭い目で睨んでいます。

「ああん? なんで一人増えてんだ? ……まさか貴様、召喚獣を喚び出したのか!」

 驚き声を上げる狼さん。

「なんと、狼が日本語を! 狼が日本語を喋っていますよ! なんですか、狼も人類へと進化するのですか! サヘラントロプス・チャデンシスですか!」

 とんでもない大発見に私はちょっと興奮してしまいました。

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